韓国ファッションといえば、服やメイクを思い浮かべますか? もちろんそれらも重要ですが、今、ソウルのおしゃれな人たちの間で本当に差がついているのは、バッグやスマホ周りの「小物」なんです。
今年の韓国トレンドを理解する上で最も重要なキーワード、それが「トッピング経済(토핑 경제)」です。これは、メインのアイテム(本体)よりも、それに追加する「トッピング(小物)」こそが自己表現の主役になるという現象を指します。
本記事では、この「トッピング経済」という新しい視点を軸に、
- 最旬バッグ
- アクセサリー
- ライフスタイル雑貨
の3分野で、韓国現地のリアルなトレンドと、その背景にあるカルチャーを徹底解説します。
この記事の目次
Part 1. バッグ:「聖水洞(ソンスドン)」と「キュレーション」が生み出す、韓国のリアル”It Bag”
今、韓国の20代〜30代の女性がリアルに愛用する”It Bag”は、もはやヨーロッパのハイブランドだけではありません。主役は、高いデザイン性と手の届く価格帯を両立させた、国内のデザイナーズブランドです。
その価値を理解する鍵は、「キュレーション(目利き)」と「ロケーション(聖地)」にあります。
まず、「29CM」や「W Concept」といった、韓国のハイセンスなオンライン・セレクトショップが、新進デザイナーを発掘し、「このブランドはおしゃれ」というお墨付きを与えます。
そして、オンラインで認められたブランドが、その世界観を現実に表現し、ブランドの「聖地」として旗艦店を構える場所が、「聖水洞(ソンスドン)」です。かつての工場地帯から「ソウルのブルックリン」へと変貌したこのエリアこそ、現在の韓国ファッショントレンドの震源地となっています。
【The “Big 3″】聖水洞(ソンスドン)を代表するブランド
この文脈を完璧に体現し、現在の韓国バッグトレンドを牽引しているのが、以下の「Big 3」ブランドです。

- Matin Kim (마뗑킴 / マーティンキム)
エッジの効いたクールなデザインで、今、最も熱狂的なファンを持つブランドです。その人気はすさまじく、聖水洞にある旗艦店は、売上の50%以上が日本人顧客という、まさに「聖地巡礼」の場所となっています。写真映えするアイコニックなロゴが入った「アコーディオン財布」やミニバッグがシグニチャーアイテムです。アクセサリーも非常に人気があります。

- OSOI (오소이 / オソイ)
建築的とも評される、ユニークなフォルムと精巧な金具(ハードウェア)使いが特徴のブランドです。ブランドの代名詞は「BROT」シリーズ。がま口のようでありながら、自然な曲線とフレームを用いた独自の開閉方式が特徴で、その独特のフォルムは持つだけでコーディネートの主役になります。価格帯は30万ウォン台(約3〜4万円台)が中心です。もちろん、OSOIも聖水洞にフラッグシップストアを構えています。

- FIND KAPOOR (파인드카푸어 / ファインドカプーア)
「ファッションと純粋芸術の出会い」をコンセプトに、インド出身のアーティスト、アニッシュ・カプーアからインスピレーションを得て誕生しました。ブランドの代名詞は「Pingo Bag (핑고백)」。多彩なストラップを自由に付け替えてカスタマイズできる点が、写真映えすると人気が爆発。10万ウォン台(約1〜1.5万円)からと、Big 3の中でも特にアクセスしやすい価格設定も魅力です。聖水洞エリアに複数のストアを展開しています。
【ライフスタイル枠】カジュアルとY2Kの融合
「Big 3」がファッションとしてのトレンドを牽引する一方、より日常使いのカジュアルシーンで支持を集めるブランドも欠かせません。
- EMIS (이미스 / エミス)
元々はアイコニックなロゴのボールキャップ(帽子)で有名になったライフスタイルブランドです。その人気がバッグにも波及し、昨年は売上が155%も増加。日本の伊勢丹でのポップアップも成功を収めています。くたっとしたフォルムが可愛い「ホボバッグ」や「ナップサック」が人気で、多くが10万ウォン以下(約1万円以下)と手頃です。主要拠点は聖水洞とは異なる、洗練されたカルチャーの街「漢南洞(ハンナムドン)」にあります。

- Marge Sherwood (마지셔우드 / マージシャーウッド)
映画『リプリー』の役名に由来する、レトロでモダンな感性が特徴のブランドです。「実用的かつ洗練されたバッグ」をコンセプトに、W Conceptなどのセレクトショップで人気です。特に「SOFT BOSTON EW(イーストウエスト)」という横長のシルエットのバッグは、次に解説するY2Kトレンドとも完璧に合致しています。

2025年SSトレンド予測:「Y2K」の完全なる復活
2025年の春夏シーズンに向けて、韓国のファッショントレンドをリードするサムスン物産ファッション部門は、主要トレンドとしてY2K(2000年代初頭)スタイルの復活を明確に打ち出しています。
具体的には、2000年代初頭に流行した角張った形状が特徴の「ボーリングバッグ(Bowling Bag)」と、犬のダックスフントのように細長いシルエットの「ダックスフントバッグ(Dachshund Bag)」がトレンドの中心になると予測されています。
これはまさに、Marge Sherwoodの「SOFT BOSTON EW」のような横長バッグの流行と一致します。
また、スタイリングとしては、バッグを2個持ちする「バッグ・レイヤード」も、おしゃれ上級者のテクニックとして注目されています。

【表1:韓国「It Bag」ブランド比較分析】
| Brand (ブランド名) | Signature Model(s) (シグニチャーモデル) | Approx. Price (KRW) (参考価格) | Core Concept (コンセプト) | Key Hub (主要ハブ/聖地) |
|---|---|---|---|---|
| Matin Kim (マーティンキム) | Accordion Wallet (アコーディオン財布) | 10万〜20万ウォン台 | トレンディ、エッジィ、クール | 聖水洞(ソンスドン) |
| OSOI (オソイ) | BROT Series (Mini, Folder, Brocle) | 30万〜40万ウォン台 | 建築的、ユニークなハードウェア | 聖水洞(ソンスドン) |
| FIND KAPOOR (ファインドカプーア) | Pingo Bag (핑고백) | 10万〜20万ウォン台 | ファッションと純粋芸術の出会い | 聖水洞(ソンスドン) |
| EMIS (エミス) | Hobo Bag (ホボバッグ), Knapsack (ナップサック) | 10万ウォン以下 | ライフスタイル、カジュアル、Y2K | 漢南洞(ハンナムドン) |
| Marge Sherwood (マージシャーウッド) | SOFT BOSTON (EW) | 30万ウォン台 | レトロ・モダン、実用的かつ洗練 | (オンライン・セレクトショップ) |
Part 2. アクセサリー:「本体」を超える「トッピング」革命
2025年の韓国トレンドを理解する上で、バッグ以上に重要なのが、この「トッピング経済」というカルチャーです。
これまでの韓国ファッショントレンドの主流は、「꾸안꾸(クアンク)」でした。これは「꾸민 듯 안 꾸민 듯(着飾ったようで着飾ってない)」の略で、いわゆる「エフォートレス・シック(抜け感のあるおしゃれ)」を意味します。
しかし、2025年の新しいキーワードは、その対極にある「꾸꾸꾸(ククク)」です。
これは「꾸미고 꾸미고 또 꾸민다(着飾って、着飾って、さらに着飾る)」の略。マキシマリスト的なデコレーションを全力で肯定するトレンドです。
この「꾸꾸꾸」トレンドを支えるのが「トッピング経済(Topping Economy)」です。

例えば、クロックス(Crocs)は、靴本体よりもチャームである「ジビッツ(Jibbitz)」の売上比率を劇的に伸ばしています。また、人気のヨーグルトアイスクリーム店「ヨアジョン(요아정)」の主役は、アイス本体ではなく、50種類以上ある「トッピング」です。
これらと同じ現象がファッションで起きています。
標準化された既製品(남들과 똑같은 것)を拒否し、「個人の趣向(개인 취향)」と「自己表現(나만의 개성)」を最重要視するZ世代にとって、バッグやスマートフォンはもはや「ベース(土台)」。それに加える「トッピング(アクセサリー)」こそが、自分らしさを表現する主役になったのです。

流行 (1) キーリング:バッグは「トッピング」で完成する
「トッピング経済」の最も分かりやすく、写真映えする表れが、バッグのハンドルに付けられた巨大なぬいぐるみや、ジャラジャラとしたチャームの流行です。
このブームは、アートトイ「ラブブ(Labubu)」のキーリングから火が付いたとされ、今やルイ・ヴィトンやグッチ、フェンディといったハイブランドまでもが高級キーリングをこぞって発売する巨大なムーブメントとなっています。

このブームを牽引しているのが、韓国の国内デザイナーズブランドです。

- WELCOMETOCCC: バックにさらにバックをつける!ミニサイズの財布のようなミニバッグをつけて収納確保
- BADEE (배디): NewJeansなどが愛用するY2Kスタイルで人気。
- JICHOI (지초이): モダンな韓国的情緒を表現。
- Bêtise (베티스): ユニークな表情の人形が特徴。
これらは単なる子供っぽいおもちゃではなく、プレミアムレザーなどを使用した、それ自体が高級品である「ラグジュリー・アクセサリー」として認識されています。
流行 (2) スマホケース:「鏡セルカ」で映る第二の顔
「トッピング経済」において、スマートフォンはバッグと並ぶ最重要のファッションアイテムです。
なぜなら、毎日持ち歩き、「鏡セルカ(거울셀카)」で必ず写り込むため、個性を表現する最大のキャンバスとなるからです。
このトレンドを象徴する出来事が、「Matin Kim x Casetify」のコラボレーションです。
最強のブランド(Matin Kim)と最強のキャンバス(Casetify)の融合は、発売以来、爆発的な人気を博し、「グローバルを含めても最上位の販売ランキング」を記録し続けています。

もちろん、Casetify以外も大人気です。韓国のYouTuberが「フォンケース・マッチプ(맛집=美味しい店、イケてる店の意)」として紹介するローカルブランドも注目です。

- 몽몽드 (Mongmonde): 夢幻的な(夢のように幻想的な)色合いと、携帯を保護するバンパーデザインが特徴。
- 하우위 (Howwe): ヒップでユニークな猫のプリンティングが写真映え抜群。
- 소유마실 (Soyumasil): 春らしい花柄やリボンなど、ガーリーなデザインが人気です。
流行 (3) K-ジュエリー:百貨店ブランドとアイドルピック
ジュエリーもまた、個性という「トッピング」に欠かせない要素です。

- VERTE (베르테 / ヴェルト): 韓国の主要百貨店で展開され、信頼と人気を確立しているブランドです。デイリーにもポイントにも使える洗練されたデザインが特徴で、最近、日本市場にも本格進出し、注目度が高まっています。
- HARANG (하랑): BTSのメンバーが愛用していることで知られています。シルバーや天然石を使ったハンドメイドの質感が特徴で、比較的手頃な価格も人気を後押ししています。
- Matin Kim (마뗑킴): バッグや財布だけでなく、アクセサリーも人気が急上昇中。「アートピースのような佇まい」と評される、存在感のあるデザインが揃います。
- 1064 Studio: 「29CM」などのセレクトショップでフィーチャーされる、コンテンポラリーなデザイナーズブランドです。
Part 3. ライフスタイル雑貨:「キュレーション・エコシステム」を追え
韓国において、ファッションはもはや衣服やバッグだけを指しません。それは、食器、フレグランス、文房具といった「生活雑貨」を含む、ライフスタイル全体へと拡張しています。
このトレンドを理解する上で重要なのは、「何を」買うかだけでなく、「どこで」買うか=キュレーションの生態系(エコシステム)です。

- 発掘(インキュベーター): 才能ある個人作家やイラストレーターが、弘大(ホンデ)や聖水洞(ソンスドン)の小規模な「雑貨屋」で作品を発表します。
- 選別(ゲートキーパー): 「OBJECT 」のような大型セレクトショップや、「29CM」のようなオンライン・キュレーターが、無数の作家の中から「テイストに合う」ブランドを発掘し、お墨付きを与えて紹介します。
- 普及(メインストリーム): これらプラットフォームで人気が確立されたブランドは、百貨店でのポップアップや大手とのコラボを経て、「国民的」アイテムへと成長するのです。
私たちが「次のトレンド」を見つけるには、この生態系、特に「ゲートキーパー(29CM, OBJECT)」の動向を注視することが不可欠です。
【聖地】ゲートキーパーの象徴「OBJECT (오브젝트)」
弘大(ホンデ)に位置する「OBJECT(オブジェク)」は、単なる雑貨屋ではなく、「デザイン・ダックフ(덕후=オタク)たちの聖地」と呼ばれる、韓国インディーズ雑貨シーンの象徴的な場所です。
4階建てのビル全体が、独立出版物、デザイナーグッズ、ポスター、文房具、食器などで埋め尽くされています。最大の特徴は、単に商品を並べるだけでなく、作家とのコラボ展示や、ワッペンを選んで自分だけのオリジナルグッズを作れるDIYスペースなどを常設し、常に新しいカルチャーを発信し続けている点です。ここに行けば、未来のトレンドの原石に出会えるかもしれません。


【注目ブランド】エコシステムが生んだ成功例
この「キュレーション・エコシステム」が、いかにしてトレンドを生み出しているか。具体的なブランドの成功事例で見ていきましょう。

- DINOTAENG (다이노탱 / ダイノテン)
DINOTAENGは、まさに「OBJECT」のような「ゲートキーパー」によって発掘された、イラストレーターブランドの代表格です。クォッカ(Quokka)とBOBO(マシュマロ)という、愛らしくてちょっとぼんやりした表情のキャラクターが絶大な人気を誇ります。商品は、キーリング、ポーチ、マスキングテープ、スマホ関連グッズなど多岐にわたります。可愛いキャラクターが文房具からキーリング(=トッピング)へとシームレスに展開する、完璧な成功事例です。
- Cocod’or (코코도르 / ココドール)
Cocod’orは、エコシステムを経て「メインストリーム」の頂点に立ったブランドであり、「国民的ディフューザー(국민 디퓨저)」の異名を持ちます。「韓国消費者満足指数1位」を10年連続で受賞するなど、圧倒的な市場シェアと信頼を誇ります。22年の歴史を持ち、自社に専門の調香師と研究所を保有する本格派でありながら、1万ウォン台(約1,000円台)という手頃な価格で高い品質を提供しているのが強みです。その人気は国内に留まらず、Amazonの米国、豪州などでカテゴリー1位を獲得するなど、K-ライフスタイルの代表としてグローバルに成功しています。写真映えするおしゃれなボトルは、お部屋のインテリアにもぴったりです。
- MUJAGI (무자기 / ムジャギ)
MUJAGIは、「29CM」のような「テイスト・ゲートキーパー」に選ばれ、プレミアム市場で人気が急上昇しているテーブルウェア(食器)ブランドです。
29CMは、聖水洞にオープンした自社のライフスタイル編集ショップ「이구홈 성수 (Igu Home Seongsu)」で、MUJAGIのポップアップ展示を開催。結果、29CMにおけるMUJAGIの取引額は、前年比135%以上も増加しました。「韓国的な美感(한국적 미감)」をモダンに落とし込んだデザインが特徴で、おうちカフェの写真を格上げしてくれるアイテムとして人気です。

【表2:K-アクセサリー&ライフスタイルブランドガイド】
| Category (カテゴリ) | Brand Name (ブランド名) | Key Item(s) (主要アイテム) | Cultural Significance (文化的シグニフィカンス) |
|---|---|---|---|
| Keyring (キーリング) | BADEE (배디), JICHOI (지초이) | ぬいぐるみチャーム、デザインキーリング | 「トッピング経済」の主役。バッグの個性を決定づける最重要アイテム。 |
| Phone Case (スマホケース) | Matin Kim x Casetify, 몽몽드 (Mongmonde) | ブランドロゴケース、デザインケース | 「鏡セルカ」文化における第二の顔。「トッピング」の主要キャンバス。 |
| Jewelry (ジュエリー) | VERTE (베르테), HARANG (하랑) | ピアス、ネックレス、リング | K-POPアイドル着用による影響力。デイリーユースな百貨店ブランドの台頭。 |
| Illustrator Goods (イラスト雑貨) | DINOTAENG (다이노탱) | キーリング、ポーチ、文房具 | 「キュレーション・エコシステム」の象徴。個人の作家が国民的キャラクターへ。 |
| Home Fragrance (ホームフレグランス) | Cocod’or (코코도르) | ディフューザー、キャンドル | 「国民的ディフューザー」。K-ライフスタイルのグローバルな成功例。 |
| Tableware (テーブルウェア) | MUJAGI (무자기) | 陶磁器、カップ、プレート | 「韓国的美感」。29CMなどによるプレミアム・キュレーション市場の成長。 |

結論と実践ガイド:韓国トレンド攻略は「聖地」と「文脈」が鍵
今回のリサーチから見えてきた、韓国の小物・アクセサリートレンドの核心は以下の3点です。
- バッグトレンドの鍵は「聖地」と「目利き」
- リアルな”It Bag”の価値は、「聖水洞」というロケーションと、「29CM」などのキュレーションによって決まります。
- 最重要カルチャーは「トッピング経済」
- おしゃれの主流は「クアンク(抜け感)」から「ククク(全力デコ)」へシフトしました。
- バッグやスマホは「ベース」に過ぎず、キーリングやチャームなどの「トッピング」こそが本体であり、自己表現の主役です。
- 雑貨トレンドの鍵は「生態系(エコシステム)」
- 未来のトレンドの先行指標は、「弘大 OBJECT」のようなインディーズの聖地と、「29CM」のようなゲートキーパーの動向にあります。

【次の一歩:推奨アクションプラン】
- 次のソウル旅行で最新の”It Bag”の世界観を体験したいなら:
迷わず「聖水洞(ソンスドン)」へ。Matin Kim、OSOI、FIND KAPOOR の旗艦店巡りは必須です。
- 未来のトレンドやインディーズ雑貨を発掘したいなら:
「弘大(ホンデ)」の「OBJECT(オブジェク)」を訪れてみてください。4階建てのビルで、宝探しのような体験が待っています。
- 日本からリアルタイムの流行を追いたいなら:
オンライン・セレクトショップ「29CM」や「W Concept」のアプリをチェックし、ランキングや特集を眺めるのが、現地の「今」を知る最短ルートです。